三国志 (5)

義盟(ぎめい)

桃園へ行ってみると、関羽と張飛のふたりは、近所の男を雇ってきて、園内の中央に、もう祭壇を作っていた。
壇の四方には、笹竹(ささだけ)を建て、清縄(せいじょう)をめぐらして金紙(きんし)銀箋(ぎんせん)の華(はな)をつらね、土製の白馬を贄(いけにえ)にして天を祭り、烏牛を狩ったことにして、地神を祠(まつ)った。 “三国志 (5)” の続きを読む

三国志 (4)

橋畔風談(きょうはんふうだん)

蟠桃河(ばんとうが)の水は紅くなった。両岸の桃園は紅霞(こうか)をひき、夜は眉のような月が香った。
けれど、その水にも、詩を詠(よ)む人を乗せた一隻の舟もないし、杖をひいて、ふらふらと歩く雅人(がじん)の影もなかった。 “三国志 (4)” の続きを読む

三国志 (3)

張飛卒(ちょうひそつ)

白馬は疎林(そりん)の細道を西北へ向ってまっしぐらに駆けて行った。秋風に舞う木の葉は、鞍上の劉備(りゅうび)と芙蓉(ふよう)の影を、鋭い矢を指すようにかすめた。
やがて広い野に出た。
野に出ても、二人の身をなお、矢(や)うなりがかすめた。今度のは木の葉のそれではなく、鋭い鏃(やじり)をもった鉄弓の矢であった。 “三国志 (3)” の続きを読む

三国志 (2)

流行る童歌(はやるどうか)

驢(ロバ)は、北へ向いて歩いた。
鞍上の馬元義は、ときどき南を振り向いて、
「奴らはまだ追いついてこないがどうしたのだろう」と、つぶやいた。

彼の半月槍をかついで、ロバの後からついてゆく手下の甘洪(かんこう)は、
「どこかで道を取っ違えたのかも知れませんぜ。いずれ冀州(きしゅう)へ行けば落ち合いましょうが」と、いった。 “三国志 (2)” の続きを読む

ジキルとハイドの怪事件

本題:THE STRANGE CASE OF DR. JEKYLL AND MR. HYDE

作者:Stevenson Robert Louis (スティーブンソン・ロバート・ルイス)

主な登場人物
アッタスン / 弁護士
ハイド / 嫌な印象を与える男性
ジキル / 博士で人々の信頼が厚い
ラニョン / アッタスンの友人
プール / 奉公している仕様人

戸口の話

弁護士のアッタスン氏は、いかつい顔をした男で、微笑なぞ決して浮かべたことがなかった。話をする時は冷ややかで、口数も少なく、話下手だった。感情はあまり外に出さなくて、やせていて、背が高く、そっけなくて、陰気だが、それでいて何となく人好きのするところがあった。 “ジキルとハイドの怪事件” の続きを読む

こころ

こころ 作者:夏目漱石(なつめそうせき)

上章 先生と私

私(わたくし)はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚(はば)かる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。筆を執(と)っても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字(かしらもじ)などはとても使う気にならない。 “こころ” の続きを読む

山月記

作者:中島敦(なかじま あつし)

隴西の李徴(りちょう)は博学で才能に溢れている、天宝の末年、若くして名を虎榜(こぼう)に連ね、ついで長江の南の地方(江南)を担当する「尉」という役人の職に任命された。性格は自分の意志をまげず、信じられるのは自分だけで自尊心は高い、下位の賤吏(せんり)に甘んずるを潔しとしなかった。 “山月記” の続きを読む