Novel

機関車を見ながら
芥川龍之介

わたしの子供たちは、機関車の真似をしている。もっとも動かずにいる機関車ではない。手を振ったり、「しゆつしゆつ」と言ったり、進行中の機関車の真似をしている。これはわたしの子供たちに限ったことではないであろう。

                                 

雨ニモマケズ
宮澤賢治

雨にもまけず、風にもまけず、雪にも夏の暑さにもまけぬ...

山月記
中島敦

隴西の李徴(りちょう)は博学で才能に溢れている、天宝の末年、若くして名を虎榜(こぼう)に連ね、ついで長江の南の地方(江南)を担当する「尉」という役人の職に任命された。性格は自分の意志をまげず、信じられるのは自分だけで自尊心は高い、下位の賤吏(せんり)に甘んずるを潔しとしなかった。

走れメロス
太宰治

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。

こころ
夏目漱石

私(わたくし)はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚(はば)かる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。筆を執(と)っても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字(かしらもじ)などはとても使う気にならない。

ジキルとハイドの怪事件
スティーブンソン

弁護士のアッタスン氏は、いかつい顔をした男で、微笑なぞ決して浮かべたことがなかった。話をする時は冷ややかで、口数も少なく、話下手だった。感情はあまり外に出さなくて、やせていて、背が高く、そっけなくて、陰気だが、それでいて何となく人好きのするところがあった。

三国志
吉川英治   1話   2話   3話   4話   5話   6話

黄巾賊の章。後漢の建寧(けんねい)元年のころ、今から約千七百八十年ほど前のことである。一人の旅人があった。

魔法博士
江戸川乱歩

ある夕方、渋谷区のやしき町を、ふたりの少年が歩いていました。元ボクサーのおとうさんをもつ、井上一郎君と、すこし臆病(おくびょう)だけれども、あいきょうものの野呂一平(のろいっぺい)君です。ふたりとも、小林芳雄(こばやしよしお)少年を団長とする少年探偵団の団員なのです。